2005/10/20

第1回国際平和省会議(ピープルズ・サミット)

メールで流したものをブログにもアップします。ちょっと長いけど読んでください。

Ministry for Peace

2005年10月18日(月)

ロンドンの朝は暗い。5時半に目が覚めたので、メールをチェッ クして早めの朝食を済ます。8時にホテルを出て会場の1 Birdcage
Walkに向かう。政府関係の建物が密集する地区だ。8時半には到着し9 時始まりの会議に一番のり。11カ国から40名弱が参加している。 ヨーロッパからは英国、オランダ、イタリア、スペイン、中東からイス ラエル、パレスチナ、ヨルダン、北米からアメリカ、カナダ、オセアニ アからオーストラリア、アジアから日本。日本からは私と佐々木良夫。

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第1回国際平和省会議(2005年10月18-10日、ロンドン)の11カ国からの参加者
前列中央がジョン・マクドネル英国議員

参加者全員に配られた会議資料の中には、各国のペーパーに混じって日 本国憲法前文と第9条の英文がちゃんと入っていた。(うれしい!)

イギリスの平和省の推進者である英国議会のジョン・マクドネル議員の 挨拶で会が始まる。会の進行はトランセンド(日本でも活動している) のカイ・ジェイコブソン。まもなく、これは会議というよりは、全員参 加型のワークショップであることに気付く。

カイが「この会議の基本ルールは、互いをサポートすることで、私たち はそのために集まっている」と一人一人に目を合わせながら伝える。平 和を実現しようとする者として最低に守るこルールを確認。具体的には:
1、誰かが話しているときは、他の人は傾聴する。
2、みんなの時間を大事にするため時間を厳守する。
3、会議費用は寄付で賄っているので余裕がある人は寄付をする。

会を進める前に戦争や暴力によって影響を受けた(殺されたり、心身を 傷つけられたり、家や仕事を奪われたりした)人たちのために黙想をす る。その静けさの中で、最初の質問がされる。

「なぜあなたはここに来たのか」。

一人2〜3分以内に自己紹介を兼ねて、なぜこの会議に参加しているか を語る。紛争地域の人や、戦争経験者は戦争では何も解決しないどころ か問題を悪化させているから、という理由が多い。私は911事件以降 やってきたことをざっと話し、クシニッチに出会い「平和省」という考 えに触発されたこと、平和憲法のある日本にこそ平和省がふさわしいと 思うにいたったこと、世界各地で平和のために働いている人たちと友だ ちになりたいことの3つのを理由にあげ、ともかく戦争を過去のものに したいのだ、と結ぶ。40人がそれぞれの思いを語ると、あっという間 に時間が過ぎ、最初のコーヒーブレーク。

おいしいクッキーとコーヒー、紅茶の休憩で参加者同士のおしゃべりが 盛り上がる。ブレイクのあとは、平和省の運動の先駆者からの報告を聞 く。

1、米国 発表者:ドット・メイバー、マイク・アトキン(ピースアラ イアンス)
先月、全米の40州から500人を集めた平和省会議を大成功させた。 平和省設立法案HR3760(S1756)はすでに米国議会に提出済みで、 この法案を支持する議員も草の根ロビイングによって増えている。ブッ シュ政権下での可決は難しいが、アメリカ市民の過半数が支持するよう な運動になることで実現を目指す。50州のうち、49州ですでに州の コーディネーターが活動しているアメリカは、この運動の先駆者。平和 に投資するという考えを広める。暴力と戦争の現実を変えるには、何を 買い、どこに投資するかのすべてにおいて、平和を優先させることが重 要。

2、カナダ 発表者:ソウル・アーベス、ペニー・ジェイ(平和省ワー キンググループ)
来年の6月21−22日にはビクトリアでの第2回国際平和省会議が決 まり、この準備をする過程で運動が加速するのを期待。法案はすでにで きているが、まだ議会には提出されていない。ロイヤルローズ大学が強 力なサポーターになっていおり、大都市バンクーバーと首都のオタワに 事務局ができた。

3、イギリス 発表者:ダイアナ・バスターフィールド、エリザベス・ ドウス(英国平和省)
アメリカの動きに触発された地方議員だったダイアナがこの運動を始 め、労働党左派のマクドネル議員を動かして、法案の提出にこぎつけ、 平和マニフェストも発表した。まだ草の根レベルでの認知はされていな いので、これからどうやって広げていくかが課題。平和はトップダウン では根付かない。あくまでボトムアップ。草の根の支持があって初めて 実現する。

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古い友人ジョー・ベリーも平和省運動に参加していて、驚きの再会。彼女の父親は英国議員でIRAのテロで殺害されたが、彼女は犯人と共に「平和の架け橋」という運動を立ち上げた本当の勇気と愛のある女性。

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昼食を近くのカフェで過ごした後、午後2時からは平和省のシミュレー ション。平和省が設立され1年がたったと仮定。この間に成し遂げたこ とを小グループに別れて議論する。平和省が政府の他の省(教育、防 衛、財務、環境、福祉)にどんな影響を与えたかをグループごとに発 表。このワークにより、平和省の役割やなし得ることが見えてくる。

平和省は他の省の仕事を奪うのではない。関連する省(国防、社会福 祉、教育、財務、環境、法務、自治など)の仕事を調整し、より平和的 な手法を取り入れさせたり、非暴力の原則をアドバイスしたり、平和を 実現した成功例を個人、グループ、コミュニティー、国、国際紛争レベ ルで調査し、サポートし、関係する省に情報提供する。

思えば、かつて環境省はなかった。今はどの国でもある。平和省も実現 する時がきている。戦争よりもより良い解決法、より効果的でコストも 少なくてすむオルターナティブがあることを、政府の決定に反映させる のが、平和省の仕事だ。とくに、問題解決に武力をすぐに使いがちな米 国では、平和省の実現は重要だ。

午後のコーヒーブレイクのあとの最後の課題は、平和省が実際どのよう に機能するかを、平和教育、コミュニティの争い(問題)、メディア、 国際紛争のテーマで、それぞれ興味のあるテーブルについて小グループ 議論し、具体的提案を発表する。

最後の課題は、これまで体験したキャンペーンで、うまくいった例の共 有。平和省の運動に限らない。これは発表する時間がなくなり、各自へ の宿題とされる。明日の朝、箇条書きにして提出することに。

予定の時間をややすぎて、6時に会議が終了。首相官邸(ダウニングス トリート)や女王のバッキンガム宮殿などを見物しながらし、全員一緒 に夕食をするために予約したイタリアレストランへ歩いて向かう。イギ リスは食事が高くてまずい、ともっぱらの評判だが、ここはなかなかお いしかった(値段も高かった)。40分以上歩いて、おなかが空いてい たせいかもしれない。

夕食が終わると、アメリカのネットラジオ(PodCast)に会議の報告をすることが急に決まる。平和省の運動が国際的な動きになってきて いることを、アメリカ市民にアピールするためだ。各国から一人ずつ、 簡単な報告を公衆電話から国際電話でする。小雨の中、公衆電話の周り に世界各地から集まった20代から80代までの老若男女が列をつくっ て、盛り上がっている様子が、おかしくてたまらなかった。

こうして、長い一日は笑いの中で終わった。(明日に続く)
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2005年10月19日(水曜日)

平和省会議2日目は昨日と同じ建物のもう少し広い部屋で全員でコの字型になって会議を進める。会場のセッティングを変えるだけで雰囲気ががらりと変わり、ちょっと緊張する。少人数でテーブルを囲む昨日のセッティングのほうが、気楽だ。

午前中はまずどうやって国際ネットワークを作るか、という課題。ホームページ、メーリングリスト、ニュースレターの作成などの具体的なことから、国際ネットワークがあることのメリットとデメリットまで、意見を出し合う。会議が終わるまでに、誰が何をやるかを決められるのだろうか。そして、この会議の宣言文をまとめて、英国議会に提出できるのだろうか。40人一緒の会議進行は、なかなか大変だ。

日本ではピースボートがイニシアティブをとっている紛争解決NGOの国際GPPACの創始者のポールが、国際組織を作る際に気をつけるべきことについてアドバイスする。彼のアドバイスに留意しながら、今回の会議の最大の目標に着手する。なんらかの平和省の国際組織の構築と、今日の夜までに採択する宣言文の起草だ。

国際組織(名前は何であれ)をつくることには参加者全員がすぐ同意したが、名前を決めたり、全員で宣言文を練るのは難しい。結局、全員での作業はあきらめ、4人のドラフト委員会を作り、プロのライターを中心に専念してもらい、その後で採択することにする。

その間残ったメンバーは、第2回サミット(2006年6月20−21日、ビクトリア、カナダ)、平和省ができうるすき間の仕事、パートナーさがし、決定プロセス、資金集めなどの課題が与えられ、自分の興味のある課題ごとに小グループになり、討論し、発表する。私は第2回サミットを選び、資金集めについてとメディア対応について提案したところ、合意される。

昼食後、ドラフトグループが戻ってきて、みんなにたたき台を渡す。全員でもう一度文言を確認しながら、最後にはこんな宣言文になった。
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第1回平和省ピープルサミット      2005年10月19日/ロンドン
(訳:きくちゆみ *なので誤訳に注意!)

今日ここに、私たちは平和省を世界中の政府の中に創設する国際的イニシアティブを発表する。あらゆる種類の暴力が増えている。これまで、そして現在行われている平和構築の成功例をさらに広げながら、責任ある解決法を見つける緊急なニーズがある。

この国際的イニシアティブは、すでに存在している国レベルの平和省キャンペーンのためにリソースとサポートを提供し、同時に他の国で同様の動きが出てきたらそれを支援する。

平和省の役割は国ごとに違うが、基本的な機能は同じであろう。
1、平和的文化を育てること
2、すべてのレベルの紛争に対する非暴力的解決方法を調査し、明確化し、実行するのを助ける
3、あらゆる人々に平和構築と紛争の変容のトレーニングをするためのリソースを提供する

下記に署名した私たちは、平和の文化へと向かう私たちの旅において、互いをサポートし勇気づけ合うこと、情報を共有し、互いの経験をより豊かにすること、互いに傾聴しあい、私たちの共通性と違いを祝福することを喜んで誓う。

すでに平和省のキャンペーンがあるグループ:
オーストラリア(平和省)、カナダ(平和省のためのワーキンググループ)
イギリス(平和と紛争解決省)、アメリカ(ピースアライアンス)

サポートグループと個人:イスラエル代表団、ビニ・デリ(イタリア)、ダマフール連盟(イタリア)、きくちゆみ/佐々木良夫(グローバルピースキャンペーン、日本)、アンク・メスリテ(平和の家、オランダ)、ポール・バントンゲレン(ヨーロッパ紛争解決センター、オランダ)、ゾグビ・ゾグビ(パレスチナ紛争解決センター)、ルーマニア平和省イニシアティブ、ジョー・ベリー(平和の架け橋、イギリス)、ロルフ・キャリエ、シモネッタ・ピッタルガ
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無事、宣言文が全員一致で採択されると、この会議のオーガナイザーのダイアンさんに感謝の花束を贈る。こんなことを予測してなかったダイアンは涙、涙。

Big Ben JPG

会議室を後にして、雨にぬれながら英国議事堂に向かう。ここでイギリス市民向けに平和省会議の成果を発表することに。よく絵はがきになっている有名なビッグベンがある建物だ。中に入る警備は厳重で、議事堂の外に作られた二つのセキュリティチェックのために雨の中、長い列を並ぶ。

無事中に入ると、さすがに古い歴史のある建物で、興味深い。議事堂の中の会議室を使うには国会議員と一緒でないと中に入れないので、みんなでジョン・マクドネル議員の到着を待つ。このあたりも日本と似ている。

グランドコミティールーム(大委員会室?)は一般市民で満員だった。マクドネル議員から議会での平和省法案の進捗状況の説明の後、ダイアンが2日間の第1回国際平和省会議の報告を始める。本当ならロンドンに来ることになっていたクシニッチ議員のメッセージビデオを流す。米国議会の会期延長でこられなくなったのだ。続いて、マリアン・ウィリアムソンからのメッセージビデオを見る。さすがにこの運動のリーダーだけあって、話しを聞くだけで勇気づけられる。

Marianne Williamson JPG

第3回全米平和省会議ですばらしい進行役を務めたマリアン・ウィリアムソン。いつか彼女も日本に呼びたい。

議事堂では11カ国の参加国のうち、アメリカ、カナダ、オーストラリア、日本が報告することに。最後に私の番がまわってくる。まず、911以降、グローバルピースキャンペーンをどうして始めたのかを話す(実は、そのときロンドンに別れた子どもたちがいたからなのだ)。それから、クシニッチに出会い多いに触発され、誰も彼のことを知らない日本でクシニッチの本まで出したことを話すと、笑われる。そして今、日本政府は日米同盟を強化し、戦争のできる普通の国になるために憲法を変えようとしていることを伝える。憲法9条の条文を読み上げ、これは未来からの贈り物であり、人類が目指す理想であり、世界のすべての国が採択すべきものなのだ、と訴える。その瞬間、会場から大きな拍手がわき起こる。憲法9条を、これから平和省の運動を通して、世界の憲法にしよう!

Dennis & Walter JPG

アメリカで最も尊敬されているジャーナリストの一人、ウォルター・クロンカイトとデニスクシニッチ。クロンカイトの平和省賛同は、多くの人を勇気づけている。

私の発表が終わると、次々とイギリス人がやってきて、握手を求められた。同じ英語でもアメリカ英語とかなりアクセントが違うので、通じるかどうか心配だったが(例のごとく、ぶつけ本番のスピーチ)、どうやら通じたようで、ホッとする。

このスピーチにはおまけがついた。日本の憲法9条を守るために、何ができるかみんなが話し始めたのだ。そして、改定されるまえに日本で平和省の会議をもってはどうか、という提案がこの会議のファシリテーターのカイからされたのだ。来年の5月あたりにどうか、という話しがディーナーの席で盛り上がる。実現できたらどんなに素敵なことだろう。日本に帰ったら、さっそく9条の会を始め、興味をもってくれそうな人たちに相談してみよう。

Marianne & Yumi JPG

平和省運動の重要なリーダーで、ベストセラー作家のマリアン・ウィリアムソン

長い一日が終わって宿に戻ると、とっくに真夜中を過ぎている。図書室の私の席の隣ではアメリカチームがネットで報告を書いている。私の撮った写真もさっそくアメリカに送る。インターネットの時代の国際会議は、昔とは隔世の感だ。ありがたきこと。

明日、日本に戻ったら、成田空港から明治大学へ直行する。大学会館8階で夕方から行われるシンポジウムで、この会議のことを早速発表したい。イロコイ連邦、ホピのエルダーもやってくる。魂の兄の星川淳さんも一緒だ。東京近辺の方は、ぜひいらしてくださいね。たぶん、くたびれた顔をしていると思うけど、それは勘弁。

きくちゆみ@雨のロンドンにて

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

平和省の役割についてです.

> 平和省の役割は国ごとに違うが、基本的な機能は同じであろう。
> 1、平和的文化を育てること
> 2、すべてのレベルの紛争に対する非暴力的解決方法を調査し、明確化し、
>   実行するのを助ける
> 3、あらゆる人々に平和構築と紛争の変容のトレーニングをするためのリ
>   ソースを提供する

最も重要な役割に,自国の軍隊とその関連省庁(国防省,つまり“戦争省”など)の監視とチェックがあると思います.ほとんどの国は「自衛権」の名の下に軍隊を所有するのですが,純数学的には,自国の軍隊も50%の確率で侵略軍なのです.
「日本の科学者」に掲載した拙文をご覧ください.
『攻められる』と『攻める』ことの等確率性 -- 数学における平和教育?--

匿名 さんのコメント...

> 純数学的には,自国の軍隊も50%の確率で侵略軍なのです.
その50%を少しでも下げること,これが平和省の最大の役割だと思います.ひとこと追記でした.

Yumi Kikuchi さんのコメント...

そう思います。アメリカの場合、特に。米国平和省はあくまでもアンチミリタリーではありません。軍隊(が不必要に出動しないよう)をサポートする性格が濃いのです。おそらく、軍隊とそれを取り巻く経済力が強いアメリカでは、そうすることから始めないと議論にもならないからだと想像します。日本の場合は、平和憲法があるのですから、これと乖離している現実を徐々に憲法遵守の方向にもっていくのも平和省の仕事になるでしょうね。平和を実現する手法は紛争解決、紛争予防など世界のNGOの蓄積が素晴らしいですね。それを学びたいです。

匿名 さんのコメント...

 たったいま(11月5日夜)、NHK特集番組を途中からみました。人間の脳をコンピューターで制御する、軍事研究としてすすめられている、、、というものです。立花隆氏がレポーターでした。
 (正確には再放送でもういちど最初からみたいと思いますが、、。)
 いずれにしても、大変な事態がすすんでいるように思えてなりません。
 
 9月27日東京新聞の夕刊で
「軍事用イルカ海に=カトリーナ余波=毒矢装備ダイバーに危険も」という記事がありました。以下書取です。

 「英紙オブザーバー(電子版)は26日までに、超大型ハリケーン「カトリーナ」が8月末に米南部を襲った際、米海軍が飼育する軍事用イルカがメキシコ湾に逃げ出した可能性があると報じた。イルカは水中でウエットスーツを着た人間に向けて毒矢を放つ訓練を受けており、ダイバーやサーファーが襲われる恐れがあると懸念されている。
 同紙によると、カトリーナの影響で海岸にあった飼育施設が破壊され、軍事用のバンドウイルカが逃げ出した。米海洋水産当局もこの事実を確認したという。
 イルカが装備している矢は、テロリストやスパイを尋問するため、眠らせるのが目的。ただ、専門家は「矢に当たった人が(水中で)何時間も発見されなければどうなるか」と語り、犠牲者が出る可能性もあると指摘。イルカを早急に捕獲する必要があると強調した。(時事)」

 となっていました。

 ”犠牲者が出る可能性”などと書いていますが、イルカはすでに犠牲者ではありませんか。
 かつて、イルカを軍事用に訓練するというエピソードの映画がありましたが、本当にこんなことをやっていたなんて、、、。

 ですから、今夜のNHK番組が想像以上の現実を示しているようで、恐怖さえ覚えます。
 地球上の生命体系を破壊する=生命体系のひとつにすぎない人間=自滅行為を止めなければならないと、、、、痛切におもいます。

   
 突然で、すみません。